漫画『娘がパパ活をしていました』社会通念もやもや満載

本・映像

漫画『娘がパパ活をしていました』は、社会への弱点が満載で、パパ活をしている子も、その親も、無関係と感じている人にも気付きがあり得るのでオススメです。

『娘がパパ活〜』を読んだ理由

→「親の視点」という切り口に関心を持ちました。

パパ活をする側の当事者目線のフィクション漫画は読んでいました(『明日私は誰かのカノジョ』や『私がわたしを売る理由』など)。

読んでいる間の感想

◎絵柄はとても可愛く、ストーリー展開もテンポ良く、最後まで一気に読めました。

でも作中で感じていた違和感が、読後もモヤモヤとなって残ったので、それらを晴らしていく記事を書きます。

⚠︎以下ネタバレあり。

もやもや①「…そんな汚い方法で…気持ち悪い…」

p125 母は、パパ活をしていた千紘(15)に「そんな汚い方法で手に入れて気持ち悪いと思わなかったの!?」と怒鳴ります。

「性的な価値」と「お金」を交換するのが「汚い方法」なら「パパ活」に限ったことではない(相手の収入目当てで婚活している女性たち等)し、そういうことは総じて「汚い方法」というよりも「危険な方法」と言った方が的確だと思います。

「汚い方法」という言葉を敢えて使うなら、搾取してもリスクが低い側の言動を指すべきです。千紘のように立場や情報の制限によって搾取されやすい側に使うとレイプカルチャー(被害者が自分を守れなかったことに責任転換する)の助長に繋がってしまいます。

腕力でも勝ち目はないし、法律も社会も守ってくれない。トラウマは一生残る(トラウマの再演リスクも高い)。パパ活は、安全でいられる補償がないリスクの高いギャンブルです。

どんなに気持ち悪くても、お金(見栄)のために犯罪を犯すのが資本主義社会の道理だと幼少期から洗脳されている我が子に「異なった生き方もある」ということを示してこれなかった結果を、子どもの責任にする親ってどれほど無責任なのでしょう。

あなた(母)の方がよっぽど気持ち悪いです、と私が千紘なら思います。

もやもや② 母のビンタ(偽善者)

娘のパパ活が発覚した母は、千紘を思いっきり平手打ちしました(p113)。

本作品に限らず、日本の映画やドラマ、アニメや漫画などあらゆる媒体でビンタが頻繁に描かれていますが、ビンタされる側が明らかに悪い言動をした時にその仕打ちを受けている場合が目立ちます(一例:映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』)。私はこういう場面を見る度に、社会でどれほど体罰・暴力が正当化・美化されてきたのかという現実を改めて実感させられ、苦しくなります。

作者のグラハム子さんも正当化している!と言いたいのでは決してなく、私が勝手に読者に注意を促したいのです。この母親が「我が子のためを思っている」風に見えてしまうかもしれないけど、どこにでもいる立派な偽善者ですからね、ってことを。

私は、人がどんなに悪いことをしたとしても、ビンタをすることは断じて許されないと主張します。ビンタをはじめとする暴力は、平和的な言動で相手を諭す知恵と工夫を怠ってきた者が犯す卑怯な手だからです。

例えば、千紘の母が、千尋が言葉が理解でき始める頃から「自分の体は自分の大切なものだから、他人に嫌なことされそうになったら逃げて、相談してね、あなたは悪くないから」などと話し合い、もっと早い段階から信頼関係を築けていたら、千紘が15歳になって気持ち悪い思いをしてお金儲けをしようと思ったでしょうか。可能性が高い。

実際、千紘は母から「少しでも違和感があったら それは離れた方がいいサインだと思って」と伝えられた後、千紘は「そうかこれがママの言ってた違和感なんだ」と「少しだけわかった気がした」そうです(正直、千紘はもっと早い段階で違和感を覚えていたから、母親の真似してしらばっくれっているのだけど)。

15歳でいきなり言われるのではなく、小さい頃から話し合っていたら、「少しわかった気がする」なんて鈍いことを思わず、直感的にわかっていたはず。むしろ直感というのは幼い頃の方がよっぽど鋭く、それを鈍くさせているのが押し付けの「教育」だったり、現実的な情報共有の怠りだったり、「広告」という洗脳だったりします。

こういう話し合いを10年以上も怠ってきたくせに、自分の思い通りに行動しない娘にいきなり暴力振るうなんていうことは親として失格です。

私も幼少期から母親からいきなりビンタされることが頻繁にあったので、ビンタのシーンを見る度に、ビンタを美化する表現方法に矛盾と違和感を覚え、モヤモヤしてしまうのだと思います。

(『娘がパパ活〜』で美化されているとは思っていません。何度も言いますが、読者の中でそこに気づいていない人がいたら、気づいてほしいという切実な思いです。)

私が千紘だったら「お前(母)にこそ違和感大有りなんだよ」ってことで一刻も早く家を出る計画を立てるでしょう。

もやもや③「ママも千紘くらいの頃はそれがわかってなかった」

「女の子はね 年頃になると 常にどこか…性的な目で見られてしまうの」「…下品な気持ちで見てくる人もいっぱいいる」「でもねママも千紘くらいの頃はそれがわかってなかった」「だから…千紘がまだわからないのも仕方のないことなんだけど…」というセリフ(p149-150)にもモヤモヤしました。作者が意図していたら脱帽なのですが、こういうお門違いなことを言う親が少なくありません。

千紘は自分が下品な目で見られてるのを重々分かったうえでパパ活してたのに「わかっていない」と決めつけ、話が噛み合ってない。子どもをどこまで鈍感だと思い込めば気が澄むのだろう。自分も「わかっていなかった」と言って知らなかったフリをしている。

問題の本質は、千紘が下品な目で見られるリスクを負ってでもパパ活をしていたことなのに。

そもそも「年頃」っていう曖昧な表現も良くぞ使ってくれたと思う。社会には、赤ん坊であろうが幼児であろうが何歳であろうが、性的に搾取する人がうじゃうじゃいるのだから、10代になってからこう言う話をし始めるのでは遅すぎる。「女の子」と言う性別や年齢に限った話ではないのに、狭い視野で話していることもこの母親のキャラクター的にツッコミどころ満載であることの一つです。

「パパ活」の誘惑に勝つには?

私は「パパ活」を意図的にしたことはないですが、富裕層の知人男性から仕事の依頼(肉体関係なし)があった際、約20万円(雑費代として追加)を渡されたことが2回ほどあります。

世界中に豪邸を何軒も所有している大富豪にしてみたら端金?断る方が失礼?と戸惑いましたが、彼は元勤務先の創業者で、私が最近リストラに遭うまで彼のポケットマネーで仕事していたのだから良いよね?と考え、有り難く受け取りました。

彼が私を性的に見ていたというのはその後の発言から判明し「私はそういうことは求めていない」と言ったら、彼は焦っていました。それからは、別の事情で会っていません。しかし、パパ活するJKたちの気持ちはわかります。私にしかできない業務を依頼され、美味しい食事をして、追加で20万円はおいしかったなぁと今でも思いますから。

私は当時、JKでもありませんでしたし、なんなら美人でもありません。でも女性として生きていると、求めていなくても、お金(や結婚の話)でこちらの気を惹こうとしてくる人は割といます。毎回その誘惑に勝つには、リスクをわかっていないと難しいでしょう。中にはリスクを解っていても、幼少期から虐待で育って、リスクに対して麻痺している場合も少なくありません。

リスクを負わないと分からない領域もありますが、リスクを負ってからでは遅いことが多い(虐待に慣れ過ぎて自暴自棄でリスクの高いことを平気でできるようになってしまう)ので、既にリスクを負ってしまった人々の(作中の「のんちゃん」など)実体験を見聞し、想像力を働かせて、思い止まって欲しいものです。

またリスクを怯えるだけなく、所持金が理想より少なくても、楽しめる方法を探すのもまた一興だと知って欲しいです。

価値観の違いで友達が離れていっても、また気の会う友達が現れます。あるいは、ぼっちがどれほど自由であるかという解放感を知れるかもしれません。

お金を持ちすぎて不幸になる人の話を見聞して、その原因について調べるてみるのも興味深いです。

「月収50万円以上から幸福感が横ばいになる」研究結果があるのを知ると、それ以上は目指さなくてもいいのかと一安心できるかもしれません。なんなら『年収90万円で東京ハッピーライフ』の作者からヒントを得てもいいかもしれません。

家庭でも学校でも、性行為(出産・子育て含め)のリスクを十分に教えずに、物欲を掻き立てる情報ばかりを流すから、歪んだ社会が出来上がっていることを俯瞰して見れるようになるかもしれません。

学生たちに性教育をしている助産婦・遠見才希子さんの『ひとりじゃない〜自分の体を大切にするって?』という本も、子どもたちから大切な情報が隠されてきて、そのリスクが分かるのでオススメです。

「自分はお金で何でも欲しいものを買えるが、ただひとつ、時間だけは買えない」という投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏の名言を知り、人の「若さ(時間)」には「お金」以上の価値があるということを再認識できるかもしれません。

内容薄め?実話じゃないが問題提起には十分

深い題材(パパ活)だけに内容が薄め?
→フィクションだから(けど問題提起には十分!)

「はちみつコミックエッセイ」から出ている漫画で、作者のグラハム子さんは『母の支配から自由になりたい』という自伝的コミックエッセイを描いておられますが、今回の『娘がパパ活をしていました』は取材を元に描かれているのでフィクションです。

実体験に基づいていないため、内容が薄めと感じてしまうかもしれませんが、問題提起をするには十分な作品だと思います。

パパ活当事者が実話に基づいた作品を描いた場合、もっと深い内容になるはず(世代間連鎖、家庭内暴力、家父長制社会、貧困などなど)ですが、それが容易ではないほどデリケートで複雑な題材だということです。

この漫画に影響されて今後、当事者による漫画エッセイも出版される日が来ることを期待しています。

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