阿賀沢紅茶さんのデビュー作『氷の城壁』を読み終えて、満足感に浸っている。
目次
- 心理模写
- 対等な関係
- 余談
心理模写
登場人物の心理模写が、ここまで細かく描かれた漫画はこれまでに存在しただろうか。
スマホで読むことを意識した縦スクロール漫画「ウェブトゥーン」という形式のコマ割りや、オールカラーならではの表現も特徴の一つだけど、そういった技法を超越した面白さが根底にある。
単行本版も読んでみたけど、本作品の面白さの真髄は、キャラクターの感情や表情を丁寧に描いていること。
さらに、お互いと交流する中で起こる化学反応によって各々が少しづつ変化、成長していく姿が自然で、まるでドキュメンタリーを見ているようなリアリティーがある。
さらにさらに、各々の価値観を生み出した生い立ちにまで丁寧に触れていて、説得力があり、物語を立体的にしている。
主人公の氷川小雪は人と接すのが苦手で、頭の中で色々考え過ぎてしまうのだが、私もそういう性格なので、特に感情移入しやすいキャラクターだった。
私は正真正銘の毒親育ちで、幼児期からのトラウマ体験の積み重ねで、こういう性格になったという自覚があるのだけど、小雪みたいに直接的な虐待があったわけでもなくても、両親の不仲や離婚、母親のストレスや孤独心から、自分自身を責めてしまったりすることがあると思うと、私自身の性格が比較にならないほど歪んでしまっているのも仕方ないよなと、自己肯定感が少し進んだ気がした。
雨宮湊の社交的な言動も実は、自身の兄が親から過干渉や否定される姿を見てきたことが心の傷になっていることが、明かされる。
そんな具合で、各キャラクターたちが抱える葛藤の原因やそれがお互いの間で徐々に解決されてゆく度に、自分の中にもあった心のシコリが少し溶けるような、癒し効果がある。
ジャンルとしては学園物のラブコメになるのだろうが、単なる恋愛の枠組みには収まりきらないレベルの深みがあり、ヒューマンドラマの域に達していて、老若男女に薦めたい。
対等な関係
阿賀沢紅茶さんはインタビューなどでも触れているように、男女の関係において「対等」な立場であるというスタンスを大事にされている。その感覚が薄いひと昔の恋愛漫画が苦手な私でも、本作の恋愛は抵抗なく読めた大きな要因だったと思う。
その対等な立場の表れの一つとして、小雪が湊のことを「かわいい」と思う場面が何度かあるが、そのかわいいと思える感覚は非常に大事と私は常日頃から思っていることだった。
「かっこいい」という言葉を求めがちで、「かわいい」に抵抗する男に対して「男のかわいいって実は最高な褒め言葉だよ?(それに気づかないお前は愚かだ)」とさえ私は言っていたことがあるくらいなので、同作品が「この漫画がすごいの男版」にランクインしていると知って、なんだか嬉しい。
湊が小雪にキスをするときに「キスしていい?」って聞いたのも、相手の境界線を尊重する言動としてよかった。
漫画でもドラマでも映画でも、そういう雰囲気になったら当然のように無言でキスシーンあるいはセックスシーンに入ることに違和感を覚えていたので。
デートレイプという言葉があるように、性加害は知らない人から受けるより、信頼関係がある人から受けることが大半である。
相手の同意というか、合意を何度も確認した上で、一歩一歩進んだり、進まなかったりして、丁寧に関係を築いていくことが大事。
確認し合わずに一生癒えない傷が心身につくくらいなら、恥ずかしくても言葉にした方がいいと思う。
だから湊がキスすることに対して「聞かれるのが嫌だったら……もう聞かない」と言った時、私が小雪だったら「いらない……許可」、じゃなくて「聞いてくれて嬉しい。ありがとう。」と言いたいところだ。
余談
ピッコマでちまちま読み始めたけど、1話むために1日待つ焦ったさから、LINE漫画も駆使して読み進め、漫画喫茶にあった7巻まで単行本で読んで、その後はマンガmeeで課金して読み切ったが、何度も読み返したい作品だ。
氷の城壁のWikipediaは現時点(2024年4月)英文のみ、というのが意外。日本語版がないのに。英語圏でも流行っているのかとネット検索してみたらRedditでスレッドがあったけど、『正反対な君と僕』の方が話題になっている様子。こちらは日本語と英語以外にも中国語を含む5言語のページがある。
『氷の城壁』あらすじ
人と接するのが苦手で、周囲との間に壁を作っている小雪。高校では他人と深くかかわらず過ごしていたが、なぜかぐいぐい距離を詰めてくるミナトと出会い──。孤高の女子・小雪、クラスの人気者・美姫、距離ナシ男子・ミナト、のんびり優しい陽太。凸凹な4人のもどかしい青春混線ストーリー。
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「正反対な君と僕」「氷の城壁」の阿賀沢紅茶とお友達になりたい! マンガ大好き芸人・吉川きっちょむのマンガ家交友録 – コミックナタリー 特集・インタビューマンガ好きとして知られるお笑い芸人・吉川きっちょむ。さまざまなテレビやラジオ番組、雑誌などに出演し、よしもと漫画研究部ではnatalie.mu
氷の城壁「氷の城壁」を読んでいるよ! #マンガMeemanga-mee.jp
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